さすがに遠慮してくれない?

穏やかであろう、日曜日の早朝の出来事。
俺は、某有名カフェにてモーニングを食していた。
50歳を少し過ぎたであろう男性が、親子(母&娘)とみられる女性に放った一喝。
というのも、その親子のスマホから音楽がそこそこの音量で流れ出ていたのだ。
えっ?
けれど、その親子はあっけらかんとしている。
赤の他人のもめごとは蜜の味。不謹慎だが。
さぁ、ゴングが鳴った。事の顛末を見てやろう。
しかも俺の席は、ちょうどそれが見やすい席に陣取っていた。

そこから見える見える。全部見える。
他の客は見て見ぬふりをしている人もいれば、チラ見している人もいる。
さて、本題に戻る。
ところが、その親子があっけらかんとしていたのには、理由があった。
いやw 私じゃないですけど
娘がそう言って、テーブルの上に置いていたスマホを手に取った。
それでも、店内には相変わらず音楽が流れている。
では、この音はどこから?
三人だけでなく、俺までもが耳を澄ませた。
すると、音の出どころは親子の席ではなかった。

天井付近。
木の梁の隅に、ひっそりと取り付けられた店内備え付けのスピーカー。
おじさんは、ゆっくりとスピーカーを見上げた。
そして、ゆっくりと親子へ視線を戻した。
先ほどまで勢いよく振り下ろされていた正義の刀が、行き場を失っている。
………。
気まずい。
俺も気まずい…。
しかし、これで終わらなかった。
すかさず母親が、おじさんの顔をじっと見つめて、こう言い放った。
それより、口にジャムがついてますよ
見ると、確かについている。
トーストに塗ったであろう赤いジャムが、口元から斜め上へ伸びている。
威厳を著しく損なう位置に、そこそこの量が。
カウンターパンチ。
しかも、顎をきれいに捉えた。
注意する側だったおじさんは、一瞬にして赤っ恥をさらした。
慌てたおじさんは、舌でペロッとジャムを舐めた。
そんなことでは取れなかったのだろう、無骨な左腕で強引にジャムを拭(ぬぐ)う。

もう、どこにも目を向けられない。
親子は再び会話を始めた。
店内のBGMも、何事もなかったかのように流れ続けている。
正直、見ている俺の方がハラハラした。
人は、見たものをそのまま理解しているつもりでいる。
だが実際には、わずかな情報から都合のよい物語を作っている。
しかもその物語に、登場人物を勝手に配役しているだけなのかもしれない。
正義感そのものは悪くない。
ただ、確かめもせずに振りかざせば、それは正義ではなく、単なる思い込みになる。
そして、振り上げた拳の下ろしどころを失い、周囲まで妙な空気に巻き込んでしまう。
人を正す前に、自分の口元(足元)を確認する。
赤の他人でよかった…。
これが身内の赤っ恥であったなら、かける言葉に困る…。
◆
8月には盆休み。
来月にはシルバーウィークがあります。
皆様におかれましては赤っ恥をかきませんよう、計画的でより良い休日をお過ごしください。